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情味ある旅




            最上川 秘められたる力
             20171125

新潟から特急「いなほ」で北に向かう。しばらくは、越後平野の広々とした大地を走る。村上を過ぎた辺りから
海岸線は岩場に変わり、見わたせど、見わたせど、岩と海ばかりの海岸線が続く。

2時間くらい走ったところ、鶴岡の手前辺りからようやく平野が現れる。ここは庄内平野。
越後平野が信濃川と阿賀野川が作り出した平野なら、庄内平野は、最上川が作りだした平野である。

この山形県のみを流れる最上川には人を引き付ける不思議な力がある。

庄内の文化というのは、最上川に寄り添いながら暮らしを築いてきた人々との調和によって生み出されたもの。

庄内平野が山々と接する場所に、出羽三山信仰の羽黒山、月山、湯殿山があり今から1400年も前から人々の信仰を
集めてきた場所。それに伴いこの平野にも古くから人々の営みが繰り返されてきたのである。

この地を治めた大名も上杉、最上、酒井と変わる中で住んでいる人々と折り合いをつけながら秩序を保ってきた。

北前船との交易、特に紅花で財をなした本間家は庄内ならではの大地主。本間家の家訓には町のために尽くすという
ものがあったそうである。明治に官軍がせめて来た時も最後まで持ちこたえ、西郷との交渉で無血開城したのも豊か
な土地の表れ。


そうした脈々とした文化が最上川の流れとともにあり、それが今も続いている。





その最上川を愛し描き続けた画家がいる。


その人の名前は、真下慶治(ましもけいじ)(19141993)、山形県最上郡生まれ。

最上川を愛し、特に最上川の冬景色を中心に描き続けた画家である。

その美術館が、最上川の中流域にあたる村山市の郊外にある。

最上川美術館である。最上川の大蛇行(大淀)のほとりに静かに佇んでいる。

いまのここの館長は、真下慶治画伯の奥さんが勤められている。

冬の最上川のほとりに、雪深い道を踏み分けて夫婦で画材を運んだそうである。
そして、そこに何時間も滞在して冬の最上川を描き続けたそうである。

ある日、奥さんが、毎日同じ風景を描き続けていて飽きませんか?と聞いたところ、
それに対して、画伯は、一瞬として、同じ空気、同じ水はないのだよ。答えられたという。

この人には、まさにこの瞬間、この瞬間の変化をとらえる目が備わっていたのである。
そして、その目を通して描かれた絵には、この変化を表現した迫力がこもっていて見る人に
感動を与える力があると思うのです。





自然の変化による無言の語りかけ、人知を超えた大自然の声。

この美術館で、静かなひと時を過ごしていると、庄内の文化に根付いた人々の心の思いを感じとれる
ような気がしてきます。